私はこの本から、心と心がつながる奇跡を感じました。
結婚や出産がすべてではない、女性の生き方がある。
誰かと“家族”になれなくても、人は誰かを想い、誰かに想われながら生きていける。
原田マハさんの物語は、そんな「やわらかい孤独」と「静かな幸福」を、そっと差し出してくれます。
『あなたは、誰かの大切な人』の概要
• 著者:原田マハ
• 出版社:講談社文庫
• 発売日:2014年
仕事、恋、家族、人生の転機。
どの女性も、どこかで立ち止まり、迷い、そしてまた歩き出す。
誰かの優しさに触れることで、明日も強く生きていこうと前を向ける短編集です。
印象に残った言葉と考察
僕に与えられた人生の使命は、たったひとつ。それは、君を幸せにすることだ
恋愛小説における「愛の言葉」は数あれど、ここまでまっすぐに響くものは少ない。
“君を幸せにする”という使命感は、支配ではなく、祈りのような愛。
原田マハさんの登場人物は、いつも誰かを幸せにしようとする不器用な優しさを持っています。
いちばんの幸福は、家族でも、恋人でも、友だちでも、自分が好きな人と一緒に過ごす、ってことじゃないかしら
この一文に、原田マハさんの世界観が凝縮されています。
“好きな人”という言葉は、恋人だけでなく、同僚や友人、時には見知らぬ誰かかもしれない。
「関係の名前」よりも、「心が通う瞬間」を大切にする視点が美しい。
人は孤独になれる空間を必要としている(中略)この家の空間は、どこを切り取っても、やわらかく包み込むような孤独の匂いがしていた
孤独を「怖いもの」ではなく、「やわらかく包み込むもの」として描く原田マハさん。
この言葉を読んだとき、私はふっと肩の力が抜けました。
誰かとつながるためには、一人の時間を愛せる強さが必要なのかもしれません。
今日を生きた。だから、明日も生きよう。
この一文には、静かな涙が宿っています。
「生きる」とは、特別なことではなく、今日をなんとかやりきること。
日常の中で少し疲れた心に、この言葉は小さな灯りをともしてくれます。
感想と考察
原田マハさんの物語には、いつも「人のぬくもり」があります。
誰かと心が触れ合うときの静かな奇跡――それを丁寧に描いている。
結婚や出産という“社会的な幸福のかたち”に縛られず、
「わたし」という存在そのものを肯定してくれる作品だと感じました。
この本を閉じたあと、
「私も誰かの大切な人でありたい」と、そっと思える。
そんなやさしい余韻が残ります。


コメント