少女の心は、こんなにも複雑で、繊細で、美しい。
太宰治の『女生徒』は、十五歳の少女が一日の出来事を日記のように綴った作品。
「他人の目を気にしてしまう自分」と「本当の自分」を行き来しながら、
生きることの痛みと幸福が静かに浮かび上がります。
あらすじ
朝目覚めた瞬間から、夜寝るまでの少女の一日を描くこの作品。
家族との関わり、通学途中の風景、買い物、友人、そしてふとした孤独。
すべての瞬間が「自分を見つめるための鏡」のように存在しています。
太宰はこの短い一日を通して、少女という存在の“生きづらさ”と“美しさ”を描きました。
印象に残った言葉
自分の個性みたいなものを、本当は、こっそり愛しているのだけれども、
愛していきたいとは思うのだけど、それをはっきり自分のものとして体現するのは、おっかないのだ
この一文には、誰もが通る“自分を受け入れる怖さ”が詰まっている。
自分らしく生きたいと思いながらも、人の目や常識が怖くて踏み出せない——。
現代のSNS時代にも通じる感情です。
「個性を出すこと」=「他人と違うこと」への恐怖。
太宰は戦前の少女の心を描きながら、今を生きる私たちの心も射抜いています。
なぜ私たちは、自分だけで満足し、自分だけを一生愛して行けないのだろう
この問いは、太宰作品の核心とも言えます。
人は、誰かに愛されたい。理解されたい。
それでも最後には、孤独の中で「自分を愛すること」を覚えなくてはならない。
少女のつぶやきのように見えて、これは“すべての人間”に向けた問いです。
自己愛と他者愛のあいだで揺れ続ける、人間の宿命のようなものを感じます。
感想と考察
『女生徒』を読むと、太宰が女性の心をここまで丁寧に描けたことに驚きます。
まるで、自分の中にもこの少女がいるような錯覚に陥る。
「私はこう感じてはいけないのかもしれない」と思う瞬間に、
太宰の言葉が優しく背中を押してくれるのです。
少女は、他人を嫌いながらも愛し、
自分を責めながらも、どこかで誇りを持っている。
この矛盾こそが「生きる」ということ。
太宰の筆が描く“少女の一日”は、
私たちの心の奥に潜む、名もなき感情たちを呼び起こしてくれます。


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