真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。
あらすじ(ネタバレなし)
川上未映子さんの『すべて真夜中の恋人たち』は、社会の中で生きづらさを抱える女性・冬子と、年上の男性(三束さん)との出会いを描いた小説です。
夜という「孤独」と「静けさ」の象徴の中で、二人の心は少しずつ重なり合い、淡くも力強い関係を紡いでいきます。
印象に残った言葉
すきな人がいたって、その人のとくべつになれるかどうかもわからないし、とくべつになることが果たしていいことなのかどうかもわからないし。妥協というとあれですけど、そこそこのすきで、そこそこの人間関係でもって生きるというのも悪いことじゃないんじゃないかってこと
恋愛や人間関係を「完璧」ではなく「そこそこ」でいいと語る言葉に、現実を生きる柔らかさを感じました。
わたしの誕生日を、一緒に過ごしてくれませんか、とほとんど嗚咽まじりの声で言った。真夜中を、一緒に過ごして、一緒に歩いてくれませんか。それからふたりで一緒に、あの曲を、一緒にきいてくれませんか。
この切実さ、真夜中にしか生まれない「愛の告白」のようで胸が締め付けられます。
真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。
それは、きっと、真夜中には世界が半分になるからですよと、いつか三束さんが言ったことを、わたしはこの真夜中を歩きながら思い出している。
世界が「半分になる」という表現が、孤独であることと安心感が同居するようで、美しく印象的でした。
読んで感じたこと(感想)
読みながら、私は「輝いている真夜中を歩きたい」と感じました。
夜という孤独の時間に寄り添いながらも、光を見つけ出すような物語。
冬子の、静かだけど、真っ直ぐで力強い愛し方や生き方は、不安を抱えながら生きる誰にとっても共鳴する部分があると思います。
考察
『すべて真夜中の恋人たち』は、ただの恋愛小説ではありません。
夜は「孤独」「沈黙」「不安」を象徴しますが、この物語ではそれが「希望」「輝き」「愛」に変わっていきます。
川上未映子さんは「夜を否定せず、受け入れることで生まれる優しさ」を描いているように思います。
そして、この本の見どころは冬子と三束さんの関係だけではありません。冬子と聖の友情にも要注目です。
人間関係に苦手意識を持っている人には、聖のサバサバしているけど力強い言葉が響くのではないでしょうか。
まとめ
『すべて真夜中の恋人たち』は、孤独を抱えた人の心を、静かに、そして優しく照らしてくれる小説です。
川上未映子さんの美しい言葉の一つ一つが、夜空の星のようにきらめき、眠れない夜にそっと寄り添ってくれるはずです。
孤独を感じて不安で眠れない夜に、ぜひ手に取ってほしい一冊です。
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